半導体不足で混乱に陥った世界。 世界トップの台湾「TSMC社」が 2024年12月、熊本で本格稼働 | エンジニアワークス

半導体不足で混乱に陥った世界。世界トップの台湾「TSMC社」が2024年12月、熊本で本格稼働

コロナ禍のさなか、世界のサプライチェーンが寸断され、様々なモノの製造がストップする事態に陥りました。記憶に新しいところでは1台に300〜500個もの半導体を搭載し、“走る半導体”とも呼ばれる新車の納品が、異例の“1年待ち”という報道も頻繁に見聞きしましたね。

ご存じの通り、スマートホンやパソコン、ゲーム機、炊飯器、テレビ、洗濯機等の家電など、演算処理装置 = コンピュータ機能をもつあらゆる製品・機器に搭載されているのが半導体です。

そんな「産業のコメ」とも呼ばれる半導体不足がコロナ禍によって顕在化。「なぜ半導体が不足しているのか」というテーマが様々なメディアに取り上げられたことで、私たちは半導体を取り巻く事実に初めて直面することになりました。そこで早速、半導体チップの世界のシェアを見てみましょう。

円グラフからも一目瞭然ですが、半導体生産能力のトップ4カ国・地域は東アジア圏が占め、東アジア圏のシェアだけで72.4%にものぼっています。米国や欧米を押さえ、日本をはじめ台湾・韓国・中国にシェアが集中していることに驚かされますね。

そこで今回は、コロナ禍をきっかけに激変した半導体を取り巻く環境について取り上げます。なかでも「火の国・熊本」あるいは「肥の国・熊本」とも呼ばれる風光明媚な熊本県でいま起こっている、世界が注視する“ある変化”についてもご紹介しましょう。

コロナ禍がきっかけに! 世界で起きた熾烈な半導体獲得競争

半導体の製造工場は、莫大なコストと高度な専門技術を擁した技術者を要する点から、“国家事業”の側面が強いといわれています。これはつまり、ある中小メーカーが「うちも半導体を作りたい!」と手を上げたとしても、その実現は容易ではないことを意味します。実際には“容易”どころか「実現させるのは無理」と考えたほうが適切かもしれません。それだけ半導体の開発・製造には、乗り越えられない高い壁が立ちはだかっていることを意味するのです。

というのも、以前の記事 「意外と知らない半導体のキホン!国内半導体メーカー・ランキングトップに輝くキオクシア」でもご紹介した通り、半導体製造は“兆”単位の法外な資本や、広大な用地、専用設備、ハイスペックな技術者の確保など、様々な難関をクリアしなくてはならない点から国家事業の側面が強いとも言われていました。

そうした背景に加え、半導体の最大の特長とされるナノレベルの「微細化技術」を製造プロセスに落とし込むことを得意とする東アジア圏の国・地域で、半導体が開発・製造されるようになっていったのです。

そんな半導体の開発・製造を直撃し、混乱に陥れたのが新型コロナ感染症です。周知のとおり、世界各国で病床の確保もままならない厳しい状態に追い込まれたことで、世界の各都市では街を行き交う人々の姿が消え、商店や工場も休業・製造停止を余儀なくされました。

こうしたことが引き金となり、世界を網目のように結ぶサプライチェーンも寸断・破壊され、その弊害は私たちの日常にもおよび、「人気車種の納車まで1年待ち」「最新機能を搭載した家電の製造中止」など様々な障害が生じることになったのです。

さらに、半導体不足に追い打ちをかけたのが、新型コロナによる「リモートライフ」への移行です。学校ではオンライン授業が実施され、企業でもオンラインミーティングが急増したことで、スマートホンやタブレットなどの電子機器の需要が急増。さらに「巣ごもり」生活によって、家電製品などの耐久消費財の需要も増加することに……。

こうした様々な事情によって、半導体確保に向けた熾烈な競争が繰り広げられることになったのですが、コロナ禍が露呈させた半導体の混乱は、製造工場のほとんどが東アジアに集中し、半導体工場が地理的に分散していない問題も浮き彫りにしたのです。

世界トップの半導体シェアを占める「台湾」

世界全体の70%以上の半導体開発・製造シェアを東アジアで占めることは冒頭の円グラフでご紹介したとおりですが、世界のチップの製造トップシェアを獲得している世界最大の半導体受託生産メーカーが「台湾」を本拠地にもつ「TSMC社」です。
※台湾積体電路製造メーカー「TSMC社」は、正式に「台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング」(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.)ですが、以下「TSMC社」と表記します。

圧倒的シェアを獲得する「TSMC社」はコロナ禍をもろともせず、右肩上がりの怒涛の急成長を遂げており、その企業力は世界各国にとって“垂涎の的(よだれが出てしまうほど欲しいと願う)”となっています。

その証に「TSMC社」には世界各国から工場建設を打診されていて、米国の前政権(トランプ政権)では、半導体の生みの親でありながらも半導体製造能力が低迷した自国の製造力を強化するため、トランプ氏は米Apple社の主要サプライヤーである「TSMC社」に誘致を打診します。

結果、トランプ政権は広大な敷地を確保できるアリゾナ州に、5nm(ナノメートル)プロセスの製造インフラ(チップ工場)を完成させることを2020年に発表。その2年後には主要工場の建設を完了させるに至ります。中国大手のHuawei排除と連動したこの動きは、米中貿易戦争にからんだ両国の「テクノロジー冷戦」とも呼ばれ、世界がその行く末を注視することとなりました。

このように、半導体を取り巻く環境や変化を少しずつ整理していくと、ナンシー・ペロシ下院議長の “訪台劇(ペロシ・ショック)”に代表される米国と中国の台湾をめぐる軋轢(あつれき)には、「テクノロジー冷戦」といった複雑かつ難解な問題もからみあっていることが、おぼろげながらも推測できますね。

「TSMC社」が日本に上陸!? 場所は? 稼働時期は?

米トランプ政権のみならず、欧州各国も「TSMC社」に誘致を打診するなど、世界から引っ張りだこの「TSMC社」ですが、実は日本でも「熊本県に28~22 nm(ナノメートル)プロセスの工場建設を決定した」と、すでに2021年10月に発表されていることをご存じでしょうか。

“日本初”となる「TSMC社」の熊本工場は、ソニーグループとともに建設することになっています。ソニーは工場の運営を任されている企業に約570億円を出資し、さらに、当初の計画よりも約1800億円多い約1兆円の投資を行うことを日本政府も2022年2月に発表。

政府肝いりの「TSMC社」の新工場稼働ですが、実のところ最大の特長とされている点は、“最新型”の半導体チップを製造する工場ではない点にあります。そう聞いて、多くの人が「えっ? なぜ?」と思うかもしれません。

実は、自動車等に搭載されている汎用性の高い半導体は、「微細化技術」を究めたハイテク・ナノレベルではなく、10年ほど前に主流とされた22~28nmプロセスのものが大半とされています。先に紹介した米国アリゾナで製造される5nmプロセスと比較しても、そのサイズ感の違いが推測できますね。

さらに、「TSMC社」に半導体製造を委託している企業は、米Apple社を筆頭に世界でざっと500社以上にのぼるとされていますが、その大半が10年前レベルの22~28nmプロセスを使用していると言われています。

つまり、おおよそ10年前に主流だった「ロジック半導体」と呼ばれる22~28nmプロセスの半導体製造が熊本で予定されていて、22~28nmプロセスの半導体チップの不足分を補うことを目的として新稼働するのが、熊本の「TSMC社」なのです。

熊本で製造された半導体は日本のみならず世界各国の多様なメーカーに供給されることになりますが、こう考えると、壮大な使命を担った新工場が熊本に建設されるなんて、日本国民の一人としてなんだかワクワクしませんか?

しかしながら、「TSMC社」の本拠地・台湾で実用化されているのは、ハイテクデバイスの5nmプロセスであり、この5nmプロセスの半導体チップの半分以上が、米Apple社に納入されています。私たちが普段使用しているiPhoneにも、「TSMC社」の最新テクノロジーが活用されていたんですね。

また、さらなる微細化技術、省力化、高機能性を見すえている「TSMC社」は、半導体チップ製造の圧倒的なアドバンテージをキープし、世界トップの座を明け渡さないために、数年スパンの短期間で3nmプロセス、2nmプロセスの開発・量産を目指しているというから、ホント驚きですね!

気になる、熊本工場(JASM)の概要とは?

去る2月28日に開催された熊本県企業誘致連絡協議会主催のオンラインセミナーでは、熊本に新稼働する「TSMC社」とソニー、デンソーの合弁会社であるJapan Advanced Semiconductor Manufacturing (JASM)の概要について、以下の概要が発表されました。

●工場建設場所 : 熊本県菊池郡菊陽町 第2原水工業団地(約21.3ヘクタール)
●建設開始 : 2022年第2四半期(4-6月)
●生産(創業)開始 : 2024年年末(予定)
●生産プロセス : 22/28nmプロセス、12/16nm Fin FETプロセス技術
●月間生産能力 : 5万5000枚(300mmウェハ)(デンソー参画決定前は4万5000枚)
●設備投資額 : 86億ドル(約9800億円)(デンソー参画決定前は8000億円)
●従業員数 : 1700人(320人を台湾TSMCの駐在員とし、ソニーグループから200人を派遣。そのほかは新規採用かアウトソーシング)

それ以外にも、企業やメーカーによっては理系以外の人や専門知識がない初心者テスターを歓迎するところも多いので、めざす業界や企業によってどんなスキルが求められるのか、どんな働き方なのか、その傾向をつかんでおくことも大切なポイントになります。


2024年12月の本格稼働に向けて、目下のところ国外からの移住者用の住宅確保や建設、国内外からの調達材の物流確保など、周辺環境に配慮した様々な取り組みが行われているようですが、「JASM社」の稼働は熊本の人々だけでなく、日本中の人々から熱視線を浴びることになるでしょう。

何より、「JASM社」の稼働は官民一体となった国家事業にも位置づけられますし、半導体にかかわる人材育成にもつなげたいねらいをもつ政府の強力な支援もあり、多数の新たな人材が雇用・創出されることになっています。

熊本の地に誕生する先端的機能をもつ半導体の工場でグローバルに活躍したいと思っている方や、ハイテクデバイスや回路設計技術に自信があり、「われこそは!」と思う腕自慢の方は、ぜひ今後の「JASM社」の動向を注視してチャンスをゲットしてくださいね!

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