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組込みエンジニアに必須の 5つの技術スキルと ソフトウェア開発における 脅威への理解





前記事の「家電などの様々な製品が進化し、便利になったのは組込みシステムのおかげ!」では、家電の代表選手である洗濯機を取り上げ、組込み技術の概要、さらに、混同しがちなCPU、マイクロプロセッサ、マイコンの関係性を解説しました。本記事では、組込みエンジニアをめざす人向けに、組込みシステムの概要と、組込みシステム開発に求められる4つの基礎技術を解説します。



組込みエンジニアの活躍フィールドはとても広範ですが、これまでは多くの場合、システム開発を手がけるSIerに入社して、顧客の家電メーカーの製品づくりにSEとして貢献するケースのほか、オートメーション化を進める工場から依頼された要件に従ってシステム開発にかかわるなどの方法が一般的でした。
SIer(エスアイヤー)=システムインテグレータの略。情報システム開発における全工程を請け負う受託開発企業のこと



もちろん、家電や製造現場以外のさまざまな分野でも組込み技術が活用されているため、組込み技術が世に登場した1990年代後半から組込みエンジニアに対する需要は衰えることがなく、今後はさらに、特定の業界で組込みエンジニアの争奪戦が繰り広げられると予測されています。



今後も引き続き、組込みエンジニアへのニーズは衰えないという見込みのなかで、業界や顧客の組込み技術に対する要望が高くなっていることも事実でしょう。組込みエンジニアをめざす人は、どのような技術を身につけておけばよいのでしょうか。



組込みシステム機器の活用範囲は、小型家電から大型重機まで


前記事では、CPU、マイコン、マイクロプロセッサの違いや関係性を整理しましたが、ハードウェアを制御するマイコンそのものは、多くの場合「軽量+コンパクト」な点が共通していて、IoT家電などの特定機能をもつ製品には、比較的小型でシンプルな機能に特化したマイコンが搭載されています。そんなマイコンの基本機能は、「デジタル時計の時間・気温・湿度・日付等の表示」「スマホの待ち受け画面に表示されるバッテリー容量などの各種表示」「自動で作動する家電」など、どれも私たちの日常にあるものばかりです。

多様な機能や動作を司るCPU、マイコン、マイクロプロセッサが搭載された電化製品や機器を総じて「組込みシステム機器」と呼びますが、なかには工場の製造機械などを制御するマイコンの大型のものもあります。例えば、大型の建物や橋を建造する際に使用する重機に搭載されたマイコンは、その特色から比較的大きな形状になります。





組込みマイコンの市場価格は数百円、PC用CPUは数万円にも


高機能性が進む民生用機器や業務用機器には、複雑かつ高度な機能を司るマイクロプロセッサが搭載されていますが、基本的にはマイクロプロセッサとCPUは同じもので、ともにコンピュータの中央部(頭脳)的な役割を処理しています。

ただし、シンプルな機能を備えた組込み機器に搭載されたマイクロプロセッサは、タイマー機能やアナログ信号をデジタル信号に変換するADコンバータなど、一度の動作で処理するデータ量が少ない特性から、市場価格は安価で取り引きされていますし、全自動洗濯機などの家電に搭載されている組込みマイコンやマイクロプロセッサの製造単価は数百円またはそれ以下の価格帯になっています。

一方、パソコンに搭載されたマイクロプロセッサ(CPU)は、大容量のメモリに対応できる、負荷の大きなアプリケーションやデータを高速処理できる……などの機能性を要求されるため、パソコン用CPUは数千円〜数万円の高価格で取り引きされていて、コストだけを見ても「組込みマイクロプロセッサ」と「パソコン用マイクロプロセッサ(CPU)」には大きな差があります。

このように家電などの民生用機器には、共通して「小さい」「製造コストが安価」「消費電力(ランニングコスト)が低い」の魅力を兼ね備えた組込みマイコンやマイクロプロセッサが搭載されていますが、この3つの要件は、量産品を製造するうえで欠かせないアドバンテージであるともいえるでしょう。



組込みシステム開発に求められる5つの基礎技術

「組込みマイクロプロセッサ」「パソコン用マイクロプロセッサ(CPU)」の規格や特性の違いを見ていくと、家電などの特定機能を必要最小限の構成で制御する組込みマイコンや組込みマイクロプロセッサは、大きさ、機能、コストなどの様々な制約の下で、進化を遂げてきた技術であるといえます。

今後は、技術の進化や製品の高機能化に伴って、組込みソフトウェアの開発はさらなる進化を遂げ、複雑化する……と見込まれていますが、多くのメーカーや開発現場では、ニーズに対してエンジニアの需要が追いつかないことが大きな問題になっています。

組込みの開発要件を定義するSIerや、上流工程を担うSEが慢性的な不足状態にある要因のひとつに指摘されているのが、組込みシステムやソフトウェアの開発には、広範かつ応用的な専門技術が求められることになります。では、組込み系エンジニアにはどのような基礎スキルが求められるのでしょうか。ここからは代表的な5分野のスキルを解説します。



AI技術


組込みの開発要件を定義するSIerや、上流工程を担うSEが慢性的な不足状態にある要因のひとつに指摘されているのが、組込みシステムやソフトウェアの開発には、広範かつ応用的な専門技術が求められることになります。では、組込み系エンジニアにはどのような基礎スキルが求められるのでしょうか。ここからは代表的な5分野のスキルを解説します。

組み込みAIはすでに身近なシーンで活用されていて、今後は製造業、医療現場、小売業、物流・倉庫、産業用ネットワーク機器などの広い領域で汎用技術になると見込まれています。



【組み込みAIが、これから普及するシステムや領域】
●各種工場内の従業員行動監視システム
●AI顔認証システム
●半導体工場内の空気圧監視システム
●デジタルサイネージ
●ナンバープレートを認識するスマートパーキング
●自動チェックイン端末
●鉄道、空港での安全監視や情報表示システム
●一般過程での蓄電システム
●玄関やエレベータ内のAI顔認証システム
●手術支援AIロボット
●災害時の被害軽減に向けたAI防災システム
●飲食店のセルフオーダー端末
 



また、膨大なデータの収集・分析を要する気象や災害予測の精度向上はこれまで困難とされていましたが、AIによる機械学習やシミュレーションに加えて、AI搭載ドローンや災害用AIチャットボット等のAIツールの活用頻度を上げることで、より精度の高い気象・災害予測が可能になると期待されています。

加えて、日本語を含む50の言語で、まるで人と人が会話をしているようなリアルなやりとり(音声会話)ができる「GPT-4」の改良版「GPT-4o」が2024年5月に発表されて大きな話題になりましたが、こうしたAI技術の進化によって今後はさらに、人ならではの気配りやおもてなしが求められるホテル、飲食、小売りなどのサービス業でもAI技術の活用が進むとされています。こうした背景から、組込みエンジニアにはAIに関する技術スキルが求められることになります。



●センサ技術


IoT製品の多くは、インターネットとつながるデバイスにセンサを搭載してデータを収集し、製品に内蔵された組込みシステムがその収集データを解析してアクションを起こしていますが、ひとくちにセンサといっても、製品や機器の特性によってその種類は様々であり、代表的なものに「GPS」「光センサ」「イメージセンサ」「音圧センサ」「温度センサ」などがあります。

特に最近は、多様なセンサ技術が組込みシステムに活用されるようになっているため、組込みエンジニアとして活躍したい人はセンサに関する技術スキルを養っておいて損はありません。



●ウェアラブルデバイスや医療・ヘルスケア機器の「温湿度センサ」
●自動車の横滑り防止等に使用される「振動ジャイロセンサ」
●物体が回転している速度を計測する「ジャイロセンサ」
●照射された光源(LEDやレーザダイオード)の反射を受光し、距離を計測する「距離センサ」
●気体や液体が単位時間に流れる量を検出する「流量センサ」……など





●ネットワーク技術


製品の動作を円滑にする環境を構築するうえで、Wi-Fi、Bluetoothや、サーバ、クラウドをはじめ、通信プロトコルやネットワーク規格に関連したネットワークスキルは組込みシステムの開発現場で必須のスキルになるため、組込みエンジニアをめざす人は、ネットワークに付随したデバイス、データに関するスキルを必要最低限養っておきたいもの。

特に自動車業界では、組込み技術を有するエンジニアが求められていて、その理由はクルマが近い将来、“走る通信機器”になるといわれていることによります。すでに多くのクルマには「走行データ」「運転状況」「道路案内」「渋滞情報」「事故情報」「店舗情報」などの様々な情報を取得・管理する車載通信システムが搭載されていますが、今後は車載通信システムが処理するデータや情報量が飛躍的に増大するなかでの、情報取得のリアルタイム性が問われることになります。

さらに、近未来のクルマは単なる移動空間ではなく、走行中に動画やゲームなどの娯楽性の高いコンテンツを楽しめるサービス機能が充実すると見込まれている点から、情報ネットワークや人工衛星(GPS衛星)を介したスムーズな双方向受信を可能とする高度なネットワークシステムの構築が、クルマの開発に携わるエンジニアにとって必須のスキルになりえます。





●デバイス技術


最近は病院に通うことが困難な高齢者や患者、さらに離島や山間地域に暮らす人々が自宅にいながら、医師との対面でしか行えなかった遠隔での医療関連サービスを受けられるようになっていますし、健康な人も、ウェアラブルデバイスを身につけることで、血圧、脈拍などの身体的基礎情報をカンタンに取得できるようになりました。

さらに、「病気を発症してから治療に専念する」から、「病気にならないよう、日常のなかで体の状態に気を配る」という予防医療(QOL=生活の質の向上)への関心の高まりを受け、ICT(情報通信技術)を活用したオンライン上で患者の健康をモニタリングする「スマートヘルスケア」への認知度も高まっています。

人々の健康維持、予防、早期発見、治療に貢献するスマートヘルスケアには様々な方法がありますが、今後もさらなる進化を遂げると期待されています。すでに使用されているデバイスや機器、ウェアラブルデバイスのほとんどに、AI、IoT、カメラ、センサ、ネットワークなどと連動した組込み技術が活用されていることからも、医療・ヘルスケア機器の開発に携わるエンジニアには、多様なスキルが求められることになります。





●セキュリティ技術


様々なデバイスをインターネットでつなぐ組込みシステムでは、その構造から悪意のある第三者に狙われ、デバイスから個人情報を摂取される恐れがあります。

これまでは、単体で作動する組込み機器についてはセキュリティ技術があまり必要とされてきませんでしたが、インターネットでつながることが当たり前になった現在は、プログラムや制御の乗っ取り、データや情報の漏洩を防御するセキュリティ技術が、組込みエンジニアにとって重要な技術要件になります。





ソフトウェア開発における脅威を理解することも、必須のスキルに


ここまで、組込みエンジニアに求められるAI技術、センサ技術、ネットワーク技術、デバイス技術、セキュリティ技術を見てきましたが、ソフトウェア開発における脅威を理解することも、必須のスキルになります。

ソフトウェアの開発現場では「不具合(バグ)の発見が後になればなるほど、修正にかかるコストが増大する」という通説がありますが、この通説は、製品が多くの機器やネットワークと接続する特性をもつ組込みソフトウェアの開発においても共通した脅威になっています。

実際に、組込みソフトウェアを搭載した家電などの大量生産品を製造する際に、製造コストのなかでもバグ対策費が大きなウエイトを占めていて、出荷後(システム結合後)にバグが出た場合、原因究明、製品交換、ソフトウェアの入替作業にかかるコストが増大し、そのメーカーの経営を直撃する脅威になりえていました。

しかし最近は、インターネットと機器がつながっている場合、システム上にバグが発生しても、アップデートファイルを入手することで新しい機能の追加や機能修正が行えるなど、容易にファームウェア更新ができるようになったことで、膨大なコストをかけずしてメインテナンス(アフターフォロー)が行いやすくなっています。こうした利点によってバグ対策費にかかる脅威はかなり軽減化されるようになりました。

とはいえ、不完全な不良品を開発・製造して、発売後に修正すればよい、というわけではなく、開発工程でソフトウェアのテストを万全に行い、システム結合以降のテスト段階までにソフトウェアのバグを完全に除去することが、組込みソフトウェアの開発に携わるエンジニアに求められていることに、今も昔も変わりはありません。組込みソフトウェアの開発における様々な課題を認識することも、組込みエンジニアの必須のスキルになることでしょう。



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