“安全確保・人命尊重”につながる3つのキーワードを理解しよう! | エンジニアワークス

“安全確保・人命尊重”につながる3つのキーワードを理解しよう!

労働災害を撲滅するため、国や事業者、労働者が安全管理に努めていますが、悲しいことに死傷者数は減ることなく、毎年ある一定の割合で事故が発生しています。

厚生労働省がまとめた平成31(令和元)年の産業別の死傷者数(下左表)を見ると、全産業の死傷者数の総計=12万5611人のうち、死傷者数が最も多い産業は製造業であり、死亡者数が最も多い産業は建設業となっています。


  1. 製 造 業 = 死傷者数 2万6873人(死亡者数141人)
  2. 陸上貨物運送事業 = 死傷者数 1万5382人(死亡者数101人)
  3. 建 設 業 = 死傷者数 1万5183人(死亡者数269人)

また、事故を要因別に分けた「型別」の上位3型(下右表)は、「墜落・転落」「交通事故」「はさまれ・巻き込まれ」となっていて、死亡事故件数トップの「墜落・転落」は、高所作業での安全管理の不具合によって発生した事故であることが推測されます。





そこで今回は、技術者や製造現場で働く人の「安全」を確保し、「人命」を守るために必須のスキルとなる3つのキーワードをご紹介します。職場の安全性を高めるために、そして自分の身を守るために、その意味をきちんと理解しておきましょう。

ミスしない人はいない。でも、仕事上の“うっかりミス”はご法度!

ルーチンと呼ばれる定型業務に従事していると、人は誰しも「これが終わったら次は◯◯をしよう。でもその前にトイレにも行っておきたい」といった具合に、眼の前の作業に取り組みながら次にやるべきことを無意識に考えています。こうした思考回路(脳の働き)に基づいて私たちは次の行動を決めています。



実は、この脳の働きが安全確保を妨げる一要因になることがわかっていて、手元への意識が散漫になったとき、「うっかりミス」「確認ミス」「誤操作」「勘違い」などのヒューマンエラーが起きるといわれています。

例えば、駅務員、運転士、作業員など鉄道職員が、対象を指差して「出発進行!」「前方確認、よ~し!」と声に出して業務にあたっている姿を、多くの人が見たことがあるはずです。この「声出し」「指差し」の基本動作による安全確認は「指差喚呼(しさかんこ)」と呼ばれるもので、様々な実験からヒューマンエラーや確認ミスの防止対策として非常に有効であることが証明されています。

では、人間の脳の働きによって生じてしまうヒューマンエラーとは、どのような事象を指すのでしょうか。さらに、ヒューマンエラーへの対策も見ていきましょう。

ヒューマンエラー

【ヒューマンエラーの意味】
いつもの業務に従事していると意識に一瞬のスキが生まれ、ミスやトラブル、事故を誘発します。そうした人的ミス、人的過誤、うっかりミスが原因の事故やトラブルをヒューマンエラーと呼びます。

【ヒューマンエラーはなぜ起きる?】
誰しもミスを犯さない人はいません。人間の意図しない行為や勘違い、集中力の途切れ、確認漏れ、機器や重機の誤操作など、無意識のうちに誤った手順や操作を行うことが、ミスやトラブル、事故につながるとされます。

【ヒューマンエラーは避けられない?】
どんなに気をつけていてもヒューマンエラーは起きるという前提に立ち、いかにして人的ミスを防ぐか、人的トラブルを少なくするかを考えましょう。

【絶対に割けなければならないこと】
「なぜ起きたのか」「何が、誰が悪かったのか」「何が足りなかったのか」を検証し、事故・トラブル・不具合の原因をしっかり解明することが重要であり、「疲れていたから」「うっかりしただけ」「新人だから」などの言い訳に済ませることは絶対に避けなければなりません。

【ヒューマンエラーを防ぐために】
「必ずミスはまた起きる」という認識をもち、再発防止に向けた対策や施策を講じましょう。あるいは「自分は大丈夫」「慣れた業務だから」と過信せず、鉄道職員のように確認対象物に対して声を出す、指を差すなどの行動を取り、安全確保を確実なものにしましょう。

重大事故につながる危険のサイン。誰にも起こる“ヒヤリ・ハット”

歩いているときにスマホを見る「ながらスマホ」が社会問題になっていますが、スマホに意識が集中するあまり、赤信号の横断歩道に入ってしまい交通事故に遭ってしまったケースや、警報機が鳴っている踏切に入ってしまった事例などが数多く報告されています。

そうした重大事故に遭わずとも、「ながらスマホ」での歩行中に植え込みの柵や扉などに気づかず、障害物にカラダをぶつけてしまった……といった経験をしたことがある人がいる一方、運転中にスマホに気を取られたことで前のクルマに急接近し、急ブレーキをかけた……など追突事故一歩手前で危うく難を逃れ、ヒヤリとした人も多いのではないでしょうか。

こうした重大事故には至っていないものの、その状態を続けていると(過信していると)、いつか大きな事故に発展する状態を「ヒヤリ・ハット」と呼びます。特に医療、製造業、建設業等の業種では「ヒヤリ・ハット」が安全確保、人命尊重の重要な指針となっています。

ヒヤリ・ハット

【ヒヤリ・ハットの意味】
「ヒヤリとする」「ハッとする」といった状態の事故に至っていない(そのまま放置していると事故に至る)事象を指します。

【ヒヤリ・ハットを危険視する業種】
大型機械を用いる製造現場や、高所での作業や重機を扱う建設現場、人命に密接にかかわる医療現場では、ヒヤリ・ハットの事象が危険予知の指針になっています。

【絶対に避けなければならないこと】
ヒヤリ・ハットを認識したときに、その事象を軽視せず、放置せず、「なぜ起きたのか」をしっかり分析・解明し、素早く対策を練ることが重要です。

【ハインリッヒの法則とは?】
「1:29:300の法則」とも呼ばれる米国の安全技師 H・W・ハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」は、1件の重大事故が起きる前には29件の軽微なトラブルやミスがあり、さらにその軽微なトラブルやミスの前には300件のヒヤリ・ハットがあることを示しています。この法則は、軽微な事象が重大事故につながる危険性を示唆するものとなっています。

【種類を分けて危険を予知する】
事業者は、作業スタッフが体験したヒヤリ・ハットの情報を継続的に集めていくことが重要です。情報を集める際には「A = 軽微なヒヤリ・ハット」と「B = 重大なヒヤリ・ハット」の2つに分け、作業者全員でその情報を共有しながらABごとに「なぜ起きたかを検証」し、さらにABごとの「対策を講じる」ことが重要です。

危機管理、セキュリティ分野で使われる人為的脅威=インシデント

インシデント(Incident)を簡単に説明すると「アクシデントが起きる一歩手前の脅威」となります。

例えば、人命に直結する医療現場でのインシデントは、次のような事象を指します。

  • 〈ネームバンドの確認を怠り、患者を取り違えた〉
  • 〈指示書を見間違えて誤った薬を投与したが、患者に変化は生じなかった〉
  • 〈申し送りが不十分で朝の注射薬が実施されなかったが、患者の容体に変化はなかった〉

いずれも、患者の生命に影響がおよばなかった“誤り”となりますが、インシデントを放置していると、下記のような患者の生命や容体に危険が及ぶアクシデントにつながりかねません。

  • 〈誤った手順が患者に行われたことで、緊急措置を要した〉
  • 〈手術中の誤った判断により患者の容体が悪化。入院日数が延びた〉
  • 〈確認不足による誤った投薬により、患者に障害が残った、あるいは死亡した〉

同様に、製造現場や建設現場でもインシデントは起こりえます。

製造・建設現場で最も多いとされるインシデントは「紛失・置き忘れ」とされます。一見すると軽微なミスに思えますが、PCやスマートデバイスが他者の手に渡れば、情報漏えいにつながりかねません。さらに、作業場の整理整頓が実施されていない環境であれば生産性低下に加え、火災や人身事故を誘発する原因になります。また、従業員の不注意や作業慣れで起きる「誤操作」「管理・連絡ミス」が常態化すれば、機械や重機による死亡事故リスクが高まることになります。

最近では、サイバー攻撃によって自動車関連工場が稼働停止に追い込まれた事例も発生しています。こうした脅威を防御するには、アクセス権限はこまめに管理する、あるいは不審なアクセス履歴がないかを確認するなど、日頃から不正アクセスを遮断するセキュリティ・インシデントへの対策が急務とされています。



インシデント

【インシデントの意味】
「人間の不注意、誤認・判断ミス」といった状況を指す「ヒューマンエラー」や「ヒヤリ・ハット」より危険性が高い事象に使用され、安全管理上では重大事故などの危難が発生する恐れのある“事故の一歩手前の事態”を指し、高い緊張感を伴う用語として位置づけられます。

【インシデントの使用例】
着陸時に航空機の前脚が下りないトラブルが発生したため胴体着陸したなど、「一歩間違っていたら大惨事になっていた」状況を指し、航空、鉄道、医療・建設・製造現場などの幅広い業種で危機管理を図る用語として使用されます。 また最近では、甚大な被害をおよぼすマルウェア感染、不正侵入、情報流出、Webサイト改ざん、フィッシングなどの脅威が急増し、その手口の巧妙性からも、セキュリティ分野での人為的脅威を指す用語としてセキュリティ・インシデントが使用されることが多くなっています。

【インシデントをアクシデントにさせないために①】
過去に起きた事例では、インシデントに関係するスタッフ全員がインシデント・レポートを書くことが一般的な再発防止策となっています。インシデント・レポートでは、

  • 〈いつ、誰が、どの場面で何をしたかといった事象を、時系列に整理する〉
  • 〈インシデントが起きた直接的要因と、間接的課題を整理する〉
  • 〈直接的要因と間接的課題をもとに、いつまでに誰が何をするかといった対策を、具体的をまとめる〉
  • 〈関係部署等でレポート内容を共有し、全員で対策・施策を実行する〉
といった手順に則ることが、アクシデントにつなげない有効な手立てとなります。

【インシデントをアクシデントにさせないために②】
業務上における重大なインシデントが確認・予見された場合、その脅威となる事象の要因を検証し、課題や問題、背景を把握する調査を直ちに行う必要があります。グローバルに展開する企業や人命に直結する業務では、インシデントが確認された時点で第三者機関等の専門チームが要因と対策を検証することが一般的であり、それが企業の責務ともなっています。

今回は、製造現場、医療現場、建設現場等のさまざまなシーンで起きうる「ヒューマンエラー」「ヒヤリ・ハット」「インシデント」の3つのキーワードについて解説しました。

重大な事故やミスにつながりかねない「ヒューマンエラー」「ヒヤリ・ハット」「インシデント」の事象や脅威に気づいたら、二度と同じ事象が発生しないよう対策をしっかり講じることが、安全確保、人命尊重の最も重要な手段であることが理解できたでしょうか。

—— 次回は、多くの製造現場で、最先端の技術が搭載されたオートメーション化やAI技術やロボット化が導入されていますが、そうした機器やマシンを管理する技術者にとって重要な「リスクアセスメント」について解説します。

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