メンテナンス技術者が心得るべき、製品規格「JIS」にまつわる“あれこれ” | エンジニアワークス

メンテナンス技術者が心得るべき、製品規格「JIS」にまつわる“あれこれ”

スマホのメモ機能に書かれた“買い物リスト”を見ながらスーパーで買い物をする人が増えたいま、筆記用具を使わなくなった人が増えています。でも、小学生時代に誰もが使っていたえんぴつ1本にも、様々な規格が定められています。

ご存じの通りえんぴつは、文字を書く部分の「芯」と、芯を保護する「軸」で構成されていて、芯と軸それぞれにJIS規格に基づく細かな値が定められてます。


■軸 → 軸の塗料(有害物質が使われていないか)の制限、寸法・長さ、曲がり度など

■芯 → 9H〜2H、H、F、HB、B〜6Bの種類(濃度)、直径・曲げ強さ・偏心など


えんぴつと同様にシャープペンシルやその芯にも規格が定められていて、ノート、セロハンテープ(セロテープ)、バインダー等、様々な文具類にも規格があります。そのほかマスク、トイレットペーパー、電球、乾電池、家電、ダンボールなど、私たちがいつも使っている日用品はもちろん、自動車・鉄道・船舶・航空、電子機器・電気機械・医療用具などの工業製品(多様な原材料から加工された製品)の多くが、JIS規格に則って製造されています。


「JIS規格」とは……
鉱工業品の品質の改善、性能・安全性の向上、生産効率の増進等のため、
工業標準化法に基づいて定められた日本の国家規格
- 経産省HPより -


そんな身近でありながらも意外と知らない「JISをめぐる“あれこれ”」について、今回はご紹介しましょう。

日本工業規格から日本産業規格へと名称が変わったJIS

あらためて周囲を見渡すと、JISマークつきの製品が多いことに気づきますが、「JISマークつきの製品は使っていて安心ですよ!」と、国が太鼓判を押したものと考えることもできますね。


そんな「JIS」の最近の大きなトピックスは、70年続いた「日本工業規格」から名称が変わったことにあります。


工業製品というと、その存在や価値を視覚や触覚で実感できる有形物や完成品というイメージがありますが、私たちの暮らしを便利にするIT技術やデジタル技術を活用したデータやサービスが、企業間競争の源泉(パワーソース)になるという考えから、“もの”として実感できないデータやサービスも「製品の一部」として考えられるように。

こうした情報技術の発展に伴う社会的環境の変化に対応し、「工業標準化法」は「産業標準化法」へと法が改正され、「データ、サービス等への標準化」が対象拡大されます。それに伴ってJISの名称も以下のように変更されることになります。


■1949〜2019年の70年におよび「日本工業規格」と呼ばれていたJISは、2019年7月からJapanese Industrial Standardsの英表記はそのままに、「日本産業規格」へと名称が改定

使用者(消費者)と作り手(製造者)に利点をもたらすJIS規格

でもなぜ、作り手はJIS規格に則って製品を製造しているのでしょうか? その理由は、使用者と作り手側に次のような利点があるからです。


■使用者(消費者)=「こども、高齢者、障がい者をはじめとするあらゆる人に配慮した設計を標準化したルール(規格)によって、性能・品質・安全性に優れた製品が使える」

■作り手(製造者) = JIS規格に則った製品を製造することで、部品の大きさや質、生産工程の統一化が図られる。結果として大量生産、コスト削減も可能になる」



こうした使用者と作り手側が得られる利点を、身近な例で考えてみましょう。


「日用品」とひと口に言ってもその範囲は広大ですが、家具も日用品のひとつにくくられます。例えば自宅で愛用していたラックの棚板が破損したため、棚板一枚だけを交換したいと思ったとしましょう。


ホームセンターを訪れると、集成材のコーナーには多種多様な板が並んでいます。なかには1辺の長さが人の身長ほどある大きなプロ仕様の板もありますし、DIY向けコーナーには、あらかじめカットされたの棚板も数多く取り揃えられています。家庭用ラックの棚板一枚であれば、大きな集成材をわざわざカットしてもらう必要もなく、ほとんどの場合、カットされた棚板から希望にかなうサイズを選択することが可能です。


実はこのカットされた板こそJIS規格に則ったもの。もともとの製品がオリジナル性の高い一点もののラックではない限り、希望にそった交換用の板は容易に入手できるはずです。このように日用品の多くが、部品の交換や汎用性を高めるために、あらかじめJIS規格で寸法が定められているのです。

「大量生産、大量消費・大量廃棄」から、「個性的消費」へ

こうした規格性が、使用者(消費者)の使い勝手のよさにつながっているといえますし、作り手側にとっても、製品を大量生産できるメリットがあります。


しかしその一方、私たち消費者のお金の使い方、価値のものさしも、ここ30年ほどで大きく様変わりしています。


■昭和の時代/“他者”と同じものをもつことで安心感を得る「同質的消費」によって、社会経済システムは「大量生産、大量消費・大量廃棄」だった

■平成から令和/サスティナブル(持続可能)な消費活動が主流となり、“パーソナル”を主体とした独自性の高い製品を選択する「個性的消費」へ


海外の量販店を訪れると、家電コーナーには赤、黒、パステルや、フローリングや部屋のトーンと揃えた色合いの冷蔵庫や洗濯機などがたくさんラインナップされていました。


その反面、「白物家電」の言葉通り、日本の家電は長きにわたって白、シルバーなどの無難な色合いがスタンダードとされ、カラーの選択肢が少ない時代が続いていました。いまやそうした時代は過去のものとなり、量販店では様々なカラーの家電がラインナップされるように変化しています。これも「個性的消費」を象徴する変化といえるでしよう。

メンテナンス・保守エンジニアに必要なJIS規格スキル

昨年から今年にかけてだけでも、建設作業現場での墜落・転落事故や、地下駐車場での二酸化炭素の消火設備の誤作動により、作業員が死亡する痛ましい重大事故などが起きています。


長期的に見て労働災害は減少傾向にあるものの、甚大なパワーを発揮する産業用機械を扱う際に、使用者が危険な可動部に挟まれたり巻き込まれたりすれば、死亡や重篤な後遺障害が残る労働災害につながりかねません。同じく、機械や設備の点検保守に従事する専門技術者も、常に危険と隣合わせの環境に置かれているといえますし、メンテナンスに従事する人のスキルが、作業者の安全を担保していることにもなります。


重大事故を撲滅するには、機械の設計・製造段階でメーカーが適切な保護方策を実施することが求められますが、同時に点検保守業務に就く技術者や作業者も、機械類の安全性に関係するJIS規格や国際規格(ISO/IEC)を理解し、リスクアセスメントを低減することが重要です。


以下の表は、安全に関するJIS規格をまとめた指針「リスク低減の原則と機械包括安全指針およびJIS 規格との関係」です。
※厚生労働省委託 中央労働災害防止協会機械のリスクアセスメント等の促進等事業
https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/var/rev0/0124/7511/20157158819.pdf


大型産業機械を扱う技術者はもちろん点検保守業務に携わる人は、下記の指針を参考に業務上の安全を担保しましょう。

万国共通の安全規格で、自動ドアの安全性もより高く

オフィスビル、マンション、商業施設などの建造物に設置された自動ドアは、専門業者による定期的な点検・保全によって安全性が維持されていますが、2017年3月に自動ドア全般にわたる安全規格『JIS A 4722(歩行者用自動ドアセット-安全性)』が経済産業省によって制定されました。これは以下の2つの観点によって改正されたものとなります。


■1/これまでは自動回転ドアの安全性に関してJISが制定されていたものの、引き戸タイプの自動ドアには全国自動ドア協会による安全ガイドラインしかなかった。国の安全規格の制定により、メーカー・設計者から建物所有者にいたる各関係主体が取り組むべき内容が明確化されたことで、すべての人が安全・安心に自動ドアを利用できることが期待されている。


■2/グローバル化が進む社会では、日本の産業規格であるJISも国際規格との整合が求められ、安全要求の厳しい欧州のEN規格をはじめとする世界各国の安全規格を参考に、日本特有の事情を反映させる形でJIS A 4722が制定された。


私たちが普段何気なく使っているたくさんのものやサービスは、この自動ドアと同様に万国共通の安全規格が取り入れられたり、規格そのものが見直されるなどして、気づかぬうちに安全性や使い勝手が格段に向上していることがわかりますね。



重大事故を起こす最大の要因は、うっかりという名の“慢心”にあり

機械・設備のメンテナンスを行ううえで多くの人に参考にほしい「エレベータの保守業務」という考え方をご存じでしょうか。最後にそのエピソードをご紹介しましょう。


ある会社で次のようなトラブルが発生しました。


若手社員の連絡ミスと確認もれにより、予定していた日時にお客様のもとに品物が納入されず、担当者からクレームの電話が。その若手社員はお客様を激怒させた理由として、上司に次のような言い訳をしたのです。

「他の仕事が忙しくて、うっかり連絡するのを忘れてしまいました」

“うっかり”を言い訳にした若手社員がしでかした業務ミスは、信用問題や損害賠償にもつながりかねないため、上司の必死のはからいによって、なんとかお客様の怒りを鎮めることができ、さらには無事に取引を続けていただけることになったのですが……。


仮にもし、この若手社員がエレベータの保守業務や大型機械のメンテナンス業務に携わる人であったら、そのうっかりは許されたことでしょうか。彼の連絡ミスと確認もれが原因で、エレベータや大型機械を使用する人が死亡する事故につながってしまったとき、「うっかりしていた」と謝罪して済む話でしょうか。


利用者の安全や人命を守るうえでの最大の敵となる「うっかり」「間違い」「気の緩み」をどう防ぐか……。
勘違いや確認もれをなくすために、日々何をすればよいのか(リスクアセスメントを軽減するためにどうすればよいのか)……。


人命や直結する仕事に従事する人たちの“慢心”が、重大事故の最大の要因になることを指すエピソード「エレベータの保守業務」は、エレベータにかかわる人だけでなく、多種多様なメンテナンス業務に携わる人々に、当事者としてとらえてほしい「心構え」でもあるのです。

——こうした心構えをスキルのひとつとする日総工産では、多種多彩な企業からメンテナンス・保守の業務を委託されています。
その活躍フィールドは全国におよび、最先端技術を取り扱う企業など技術領域も多種多彩です。
気になる方は「エンジニアワークス」をぜひチェックしてみてくださいね!

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