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全固体電池の特許出願数は日本がトップ!





前記事の「EV用バッテリーが全固体電池に代わったときのメリットとは?」では、従来の車載用バッテリー(リチウムイオン電池)が、「全固体電池」に代わった際にどのようなメリットが得られるかをご紹介しました。

記事では、車載用リチウムイオン電池の世界シェアにも触れていますが、世界ランキング10のうち、日本はかろうじて4位にパナソニックがランクインしたものの、それ以外は中国企業6社、韓国企業社が名を連ね、中国・韓国勢の圧倒的シェアに驚かされるとともに、半導体と同じく車載用リチウムイオン電池でも、アジア圏の強さが浮き彫りになりました。

ところが、中国・韓国勢を押さえて、日本がダントツトップの位置につくデータがあることをご存じでしょうか。それは「全固体電池」の国際特許出願数なのですが、今回は「全固体電池」における日本の優位性をご紹介する前に、「そもそも、特許とは」と題し、国際競争力と差別化の証になる「特許」についても解説します。

そもそも、特許とは?


「特許」とは、特許法によって特許権を与えることを指し、特許を受けた「発明」について一定期間独占的に業(なりわい)として使用や譲渡などができる権利のことです。また、特許権(PATENT)のほかに著作権、意匠権、実用新案権、商標権など複数の権利をまとめたものを「知的財産権」と呼びます。

知的財産権にかかる世界の訴訟件数の傾向を見ると、訴訟大国のイメージが強い米国では近年減少傾向にあるものの、それでも年間5000件ほどの知的財産権の訴訟が発生しています。なかでも中国での訴訟件数の増加は著しく、2021年には米国の訴訟件数を抜き、中国が世界トップの座についています。





発明の対価が604億円と認定された有名な裁判事例


世間の注目を集めた有名な裁判に、ノーベル物理学賞受賞者の中村修二氏が、元勤務先の日亜化学工業に対して、発明の帰属と発明の譲渡に対する補償を求めて訴訟を起こした「青色発光ダイオード訴訟」があります。

日亜化学工業に在職していた当時、中村氏は青色LED(発光ダイオード)の研究にいそしみ、特許を100件近く出願していました。日亜化学工業はこれらの開発特許によって高輝度LEDおよびLDにおけるトップメーカーになり、圧倒的優位性を手中にします。

日亜化学工業を退職後、半導体に強い米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授に転身した中村氏は、学内の研究者仲間に「青色LEDの発明の対価として、勤務先から出願時に1万円、登録時に1万円の計2万円をもらった」と話しますが(裁判では同年代の社員と比較して11年で総額約6200万円を賞与や昇給で上乗せしたと日亜化学工業は主張)、その話を聞いた研究仲間は絶句します。

「研究に対する対価が低すぎることに甘んじている」と仲間から指摘を受けた中村氏は2001年、日亜化学工業を提訴します。長きにわたる裁判を経て、東京地裁は「404特許※」の発明の対価を604億円と認定したうえで、604億円の一部である200億円を中村氏に支払うよう命じたのです。
※かつて日亜化学工業が保有していた窒化物半導体結晶膜の成長方法に関する日本の特許

その後、日亜化学工業側が控訴するなどしますが、最終的に日亜化学工業側が約6億857万円(延滞損害金を加えて約8億円)を中村氏に支払うことで和解が成立することに……。



街の風景を変え、生活をより豊かで快適にする青色LED


判決が出た当時、発明の対価が604億円であることや、支払い命令の金額が200億円だったことから大きな話題となり、開発特許めぐる訴訟として社会的注目度が非常に高かったのですが、この判決は、産業界待望の世界的発明を成し遂げた社員に対する企業の評価のあり方や、発明の帰属と発明の譲渡に対する補償、知的財産権の管理のあり方が大きく問われる契機になったのです。

青色LEDは低消費電力性(低出力による省エネ)や長寿命性に優れている点から、照明器具としての用途が広く知られていますが、偉大な発明と言われる所以は「さまざまな科学者たちが青色LEDの発明を試み、白光をつくり出そうと努力をしてきたが成功に至らなかった」「20世紀中の開発は難しいといわれた偉業である」「21世紀の人工光源としてエネルギー削減に貢献する」「青色LEDの量産化に成功した功績」などがあげられます。

そして、2014年に中村修二氏は、赤﨑勇氏(名城大学特別栄誉終身教授)、天野浩氏(名古屋大学特別教授)の同時受賞者とともに、ノーベル物理学賞授与の栄誉に輝くことになります。

青色LEDが量産されるようになった現在では、信号機、照明、液晶ディスプレイ、パソコン、自動車用ヘッドライト、Blu-rayディスク、植物工場、大規模イルミネーションなどあらゆるシーン、用途に活用されていますが、青色LEDの発明なくしてスマホの小型・軽量化はあり得なかったともいわれています。





2016年以降に急増する「全固体電池」の特許出願数


前置きが長くなりましたが、ここから本題です。
——知的財産権のひとつである特許権を取得し、自社発明をアピールできれば、商品や企業イメージの向上に加え、競合他社に対する優位性を保つことができますし、特許取得によって発明の無断盗用を防ぐこともでき、発明の成果が法律で守られることが保証されます。

このように、多額の費用と時間をかけて発明と呼ばれる先端技術を研究・開発した企業や機関にとって、特許は非常に重要な役割を担いますが、2010年以降、EVシフトに向けて世界の競合が揃ってギアをシフトアップさせた「100年に一度の大変革」に伴い、「全固体電池」の研究・開発に取り組む企業が増え、2016年あたりから年平均25%増の割合で、次世代の二次電池として期待が集まる「全固体電池」の国際特許出願数が右肩上がりで急増していることが明らかに……(下グラフ)。

先端的な蓄電技術が凝縮している「全固体電池」の研究・開発の成果として特許を取得できれば、〈巨大なEV市場でシェア拡大を図れる〉〈車載用バッテリーで独占権を獲得できる〉〈しのぎを削る世界のEVメーカーのなかで圧倒的優位性を担保できる〉〈競合との差別化を明確にできる〉などの果実を手にすることができます。





2000~2018年の電池技術の特許出願数 世界トップ10


世界の素材メーカー、電池メーカー、自動車メーカーがこぞって「全固体電池」の研究に注力するなか、欧州特許庁および国際エネルギー機関が2020年9月に発表した、2000~2018年の【電池技術の特許出願数 世界トップ10】は以下のようになっています。

EV販売台数で世界に後れを取る日本ですが、電池技術に関する世界特許出願数では世界上位の10社中7社が日本を拠点とする企業であり、日本が全体の7割を占める世界ナンバー1であることが明らかになったのです。





「出願数」「トータルパテントアセット」ともに日本がトップ


さらに、EVシフトの強風に乗り、一気に増え始めた「全固体電池」の国際特許出願数の上位5カ国は下表の通り。

ブルーで示されたグラフが「特許出願数」で、オレンジ色のグラフが「トータル パテント アセット」になりますが、「出願数」「トータルパテントアセット」ともに、日本が群を抜いて優れた数値を示し、2位〜5位にランクインする中国、韓国、米国、欧州を大きく引き離していて、2つのデータから「全固体電池」の研究・開発において日本が圧倒的優位に立っていることがわかります。





ちなみに「トータル パテント アセット(TPA)」とは、各企業の一定基準以上の評価を得た特許を対象に、競合他社へインパクトを与え得る特許の強さを評点化することで、成長が見込まれる産業における企業のケイパビリティ(才能や能力・可能性)を評価する指標です。TPAスコアが高い企業ほど総合的な競争力を有していることになります。

次はさらに、企業別のランキングに目を向けてみましょう。自動車メーカー、化学・素材メーカー、電子部品メーカーなど世界のビッグネームが名を連ねるなか、トップに堂々と君臨するのはトヨタ自動車であり、グラフが突出している様子からは、競合他社にもの言わせぬ研究・開発力と、世界に冠たるトヨタの本気度が見て取れます。





破竹の勢いで成長し、日本を猛追する中国をかわせるか

「全固体電池技術の出願数とトータルパテントアセット」で世界トップに輝く日本。さらに「全固体電池」における国際特許出願数ではトヨタ自動車が突出し、頭抜けた評価を得ていますが、その一方で蓄電技術に広く目を向けて見ると、ナトリウムイオン電池、多価イオン電池の他の分野では中国がトップに君臨していることが判明しています。

1995年に電池メーカーとして操業し、2020年の時点では42万台弱しか製造していなかったBYD(中国)が、わずか2年で188万台を製造する規模へと成長したことも、EV市場を席巻する中国の躍進ぶりを表すデータのひとつですが、2022年上半期のEV販売台数においてBYDが世界トップのテスラを超えたことで、「BYDがテスラを王座から引きずり下ろした」という報道が世界を駆けめぐったのも、記憶に新しいところでしょう。

このときの「EV」のカウント数は、テスラが「BEV※のみのEV」であり、BYDのカウントは「PHEVと商用車を含んだEV」であったため、テスラが王座を明け渡していなかったことがのちに判明したというオチがありますが、いずれにしても2022年の全世界のEV販売台数=約1063万のうち、中国内でのEV販売台数は約688万7000台に!
※電気のみをエネルギー源とする車両のことで、一般的には「EV」と呼ばれることが多い

全世界のEV販売台数の6割(57%)を占める中国の圧倒的シェアによって、“飛ぶ鳥を落とす勢い”といえる中国のEV市場の成長ぶりを世界に知らしめることになったのです。





破竹の勢いで成長し、日本を猛追する中国をかわせるか

中国が巨大ブルドーザーのような力で国内のEV化を推し進め、対前年比93.4%増の688万7000台の成功をバネにグローバルにうって出ようとするなか、日本国内での2022年のEV販売台数は5万9237台にとどまり、出遅れが際立っています。その現状に、世界から以下のような厳しい目が向けられています。




——日本は、EVにおけるリチウムイオン電池や全固体電池の特許で国際的にリードしているが、国内でのEV市場の規模は拡大していない ——




日本のメーカーが次世代リチウムイオン電池や「全固体電池」の研究・開発に注力し、国際特許出願数でトップに立つ反面、日本にはなぜEVが普及しないのか……。

このギモンについてはさまざまな要因が思い浮かびますが、この停滞した状態が続けば、世界と比較して何周も出遅れている「デジタル化」「5Gの普及」「男女の格差解消」「女性の活躍」などと同じく、「EVの普及」でも世界に大きく後れを取り、“ガラパゴス化”と再び揶揄されることになりかねません。

そうならないためには、トヨタをはじめとする国内自動車メーカーやパナソニックにより頑張ってもらうことはもちろん、官民の総力でEV普及の特効薬と言われる充電ステーション等のインフラ整備を急ピッチで進めてほしいものです。そして何より、ガソリン車のオーナードライバーは、次の買い替え時にぜひEVを検討してほしいものですね。

100年に一度と言われる自然災害が毎年のように発生し、世界各地が洪水被害に遭ういま、すべての日本人が力を合わせて頑張らなければならないほど状況は“待ったなし”であり、競合がヒタヒタと足音を立て、すぐ背後まで迫っているにもかかわらず、いっこうに“脱炭素化”に無関心な日本を、世界は冷ややかに見つめているのですから。

参照/PR TIMES



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