〈日本✕最先端半導体✕ITエンジニア〉前人未踏の 2nm世代プロセスに 突入した最先端半導体 | エンジニアワークス

前人未踏の2nm世代プロセスに突入した最先端半導体





2022年に韓国のサムスン電子が「3nm世代プロセス」の半導体の量産を世界に先駆けて開始したと発表して以来、世界が競って微細化の研究・開発に取り組み、微細化レベルは前人未踏の「2nm世代プロセス」に達しようとしています。

半導体は1940年代後半に米国で発明されましたが、1980年の半導体産業の黎明期では日本が世界シェアの頂点に立っていました。しかし現在、政府による保護・援助を受け半導体産業を急拡大させた台湾や韓国にシェアを奪われ、トップ集団から“周回後れ”といわれるほど日本は後退することになります。

長い低迷期を経て、日本の半導体産業が起死回生を図る新たな動きが1年ほど前から紙上やネットニュースを飾り、“日の丸日本の復権”に大きな期待が寄せられています。今回は「日本✕最先端半導体✕ITエンジニア」と題し、世界、社会、暮らしのゲームチェンジャーになると期待されている最先端半導体の“いま”を探ります。

半導体の種類、特徴、使用例


私たちにとって身近なスマホ、パソコン、自動車などの電子機器やシステムはこれからますます高機能していくでしょうし、メーカーやものづくりの現場でも、産業機械とインターネットとつながったオートメーション化が急ピッチで進んでいます。

こうした機器、サービス、システム等の膨大な情報の蓄積や、データを処理するメモリやロジック、各種センサの高機能化、高速化、小型化を実現するのが半導体(デバイス)ですが、今後は「産業」にとどまらず、モノがインターネットとつながる便利で豊かなIoT社会は、最先端半導体なくして成り立たないことになります。

そんな半導体のプロセスの単位は40nm、10nm 7nm、5nm、3nm、2nmのように「nm(ナノメートル=ナノは10億分の1)」で表されますが、これらの数値は半導体(ICチップ)に配置されたトランジスタのゲート長で、プロセスの数字が小さくなるほど、半導体ICチップが微細化されていることを示します。このことから最先端半導体は「微細化半導体」とも呼ばれます。

導体と絶縁体の中間の性質を持つ物質である半導体については過去の記事でもご紹介してきましたが、ひと口に「半導体」と言っても種類や機能性に違いがあり、以下の4つに大別されます。





◉「ディスクリート半導体」(Discrete = 個別)


コモディティ(汎用)製品の代表といえる「ディスクリート半導体」は、ICやLSIなどの複雑な半導体とは異なり、集積度が低く“一素子に一機能”の機能を備えた半導体のことを指します。

オートメーションで大量生産できる利点から、家電、モバイル、IT(情報技術) 、自動車、エネルギー関連にいたるさまざまな産業・分野・領域で「ディスクリート半導体」は使用され、“モノの電デジタル化”に大きく貢献してきました。また、長期にわたり「ディスクリート半導体」で世界のトップを走ってきたのが日本の半導体産業です。



◉「IC(集積回路)」(IC=Integrated Circuit)


「集積回路」とは半導体(ICチップ)のことで、豆粒ほどの大きさのチップ内には何十万個ものトランジスタを内蔵されています。チップ上に回路パターンを転写した集積回路のキャパシティ(集積率)が高いほど高性能になり、半導体の高機能化に伴い、デジタル機器やコンピュータの機能は飛躍的に向上。デバイスの小型化を実現した立役者が「ICチップの小型化」とされています。

デジタル信号を扱うデジタルICの集積回路には、データや信号の処理を行う「ロジックIC」と、データの記録に用いられ「メモリIC」があり、この2つの機能をあわせもつのが「USBフラッシュメモリ(記憶装置)」です。パソコンのUSB端子口に挿すだけでデータの読み書きができる機能性と便利さから、「USBフラッシュメモリ」はポケットに入る使い勝手のよい小さな半導体として爆発的に普及。

さらに最近は、HDDにとって代わるSSD が人気を集めていますが、HDDとSSDの違いは〈HDD = 磁気ディスクを使った記憶装置〉〈SSD = 半導体メモリを使った記憶装置〉であることから、ICチップの高機能化に伴い、SSDは「衝撃に強い」「小型化かつ大容量」「モータがないため静音」「量産によってデータ容量あたりの単価が低くなる傾向にある」「省電力」「省スペース」「データの読み書きの高速化」などさらなる高機能性を私たちにもたらしてくれました。





◉「LSI(大規模集積回路)」(LSI = Large Scale Integration)


多数のトランジスタやダイオード、抵抗、コンデンサなどの電子部品(素子)を、ひとつの半導体チップに組み込んだ集積回路(IC)を「LSI(大規模集積回路)」と呼びます。例えば、2億個のトランジスタを1cm角のCPUに配置するとき、その回路の配線幅は0.1μm (マイクロメートル)になります。

「LSI(大規模集積回路)」はデジタルカメラやスマホの画像処理技術向上はじめ、スマホ、パソコン、タブレット、ウェアラブルなどの情報端末などの電子機器に用いられ、パソコンの心臓部であるCPU 、コンピュータの演算処理データや記憶機能を司っています。

そのほかにも、自動車のカーナビ・エアコン、オーディオ、パワステ、エンジンコントロールから、炊飯器の自動火力制御、自動掃除ロボットなどの高機能家電や、銀行のATMなどの大規模システムにも「LSI(大規模集積回路)」は用いられています。





◉近未来の半導体 = 最先端半導体


「次世代ロジック半導体」とも呼ばれる微細化された「2nm世代プロセス」の最先端半導体は、今後、クラウドコンピュータ、AI、ロボット、車の完全自動化運転などの最新機器や製品、システムに搭載されることになり、2nmの最先端半導体が生産されたあかつきには処理速度、消費電力、機能性などが飛躍的に向上すると期待されています。

デジタル化の進化に伴って最先端半導体の需要が急拡大する現在、世界の半導体メーカーに後れをとった日本は、国家も全面支援する体制で敗者復活を懸けた動きを加速させています。2022年8月に創業した国策半導体ファウンドリのRapidus(ラピダス)はIBM(米国)と戦略的パートナーシップを締結し、2020年代後半に「2nm世代プロセス」の国内生産基盤の確立をめざすと表明。周回後れの位置からデッドヒートをかけ、一気にトップ集団に追いつこうとしているのです。

日本に限らず、世界シェアの50%以上を占める半導体ファウンドリ最大手のTSMC(台湾)も、2025年に「2nm世代プロセス」の最先端半導体の量産開始に向けてロードマップを順調に進んでいますし、トランジスタのゲート長「3nmプロセス」の開発に成功し、2024年から3nm世代プロセスの量産を開始(予定)するサムスン電子も、2025年から2nm世代プロセスの量産をめざすと表明。まさにいま、アジアの英雄が相争う状況になっているのです。





湧きにわく熊本。TSMCの新設巨大工場「JASM」


現在、日本企業が量産できるプロセス範囲は40nm以上とされ、世界から10年後れ、周回後れと指摘されていますが、昨年から大きな話題になっているのが、熊本県菊陽町に2023年内に完成するTSMCの巨大工場「JASM」です。

プレスリリース直後は、「JASM」では主に、スマホや自動車市場で需要が高い「ロジック半導体」と呼ばれる22~28nmプロセスの半導体の製造に特化すると伝えられていたのですが、新たに製造能力を強化し、「FinFETプロセス※」による12~16nmの半導体製造も「JASM」で行われることが明らかになっています。※FinFET(フィンフェット)=既存の平面(2D)構造の持つ限界を克服するために導入された立体(3D)構造の工程技術

この巨大工場「JASM」は、日本初の半導体製造工場であり、ソニーグループ、デンソーなどが出資するほか、国も工場建設の投資額の半分相当の最大4760億円の補助を表明するなど、国境を越えた官民挙げての一大プロジェクトに位置づけられます。熊本の地では24時間体制で巨大工場の建設工事が急ピッチで進み、日ごとに高さを増す工場の威容をひと目見ようとする見学者が多数訪れ、現地は湧き立っているようです。





北海道で「2nm世代プロセス」の開発・量産をめざすRapidus

熊本のTSMCの「JASM」の新設に次ぎ、厳しい状況に長らく置かれていた日本の半導体産業を一気に高みに押し上げる吉報が報じられました。みなさんもご存じのとおりその報道とは、先端半導体の国産化に向けて2022年8月に設立された日本の国策半導体ファウンドリRapidus(ラピダス)が、「2nm世代プロセス」の開発・量産を開始するものであり、すでに北海道千歳市で工場の建設がスタートした一報は世界を駆けめぐりました。

半導体に詳しくない人も詳しい人も、日本人であればRapidusの果敢なチャレンジに声援を送りたいところですが、今後さらに進化すると見込まれているスーパーコンピュータやAI、電力コントロール、自動運転技術、5G通信など、あらゆるデジタル技術を活用する先端領域で「2nm世代プロセス」の半導体が用いられるようになります。

その期待値から、Rapidus主体の巨大プロジェクトにはトヨタ、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行などの大手企業が出資し、2020年代後半の「2nm世代プロセス」以下の最先端半導体の開発・量産を支援しています。2030年あたりからRapidusが製造した最先端半導体が広く用いられるようになれば、そのときこそ“日の丸復権”の狼煙(のろし)が上げられることになります。期待が高まりますね。





Rapidusに寄せられるさまざまな声

前述したように日本企業が量産できるプロセス範囲は40nm以上とされ、世界から10年後れ、周回後れと指摘されるなかで、Rapidusがチャレンジする「2nm世代プロセス」の開発・量産には、以下のような懐疑的な声も寄せられています。

「国家プロジェクトにする必要があるのか?」
「Rapidusが短期間でTSMC並みの量産技術を習得することはきわめて難しいだろう」
「RapidusにGAA※構造のトランジスタ技術の支援を行うIBM(米国)も量産技術までは持ち合わせていないため、2020年代後半の量産化は実現できるのか?」
※Gate All Around(GAA)FET = 全周ゲートFETはサムスン電子が世界に先駆けて3nm世代フロセス半導体の量産で採用

その一方、Rapidusの挑戦を応援する声も多数寄せられています。
「世界に後れを取った現状にRapidusが風穴を開けてほしい」
「半導体シェアで世界トップだった当時を知るエンジニアの魂が火を吹いた」
「技術立国・日本、日の丸半導体復権を賭けて、ぜひ実現してほしい」

さらに、一国、一企業の利益の範疇を超えて、新たなデジタル社会を迎え撃つ覚悟さえ窺えるRapidusの挑戦は、「2nm世代プロセス」以下の最先端半導体の開発・量産に必要な大型の箱(工場)を作ればよいわけではなく、優れたエンジニアなくして実現しないため、世界、そして日本の半導体の先進技術を有したエンジニアに、いま続々と声がかかっているようです。





「2nm世代プロセス」の半導体が実現したあかつきには?

「2nm世代プロセス」半導体の量産化をもってして、半導体微細化のロードマップは終了する……といった見立てもあるなか、最終ゴールされる「2nm世代プロセス」の半導体には、豆粒ほどの面積に最大500億個のトランジスタを搭載できるとされています。そんな半導体が量産されたあかつきには、私たちにどのような利点があるのでしょうか。

◉1枚のウエハに含まれるトランジスタが増える効果により「製造コスト削減」が得られる
◉機器・製品の性能に直結する消費電力が向上する「低消費電力化」が得られる
◉面積あたりの計算処理性能向上で、機器・製品の「動作性能の飛躍的向上」が得られる
◉機器・製品によって機能は異なるが、以下のような多様な「機能性の向上」が得られる
人間の脳のように考え、記憶する処理能力の向上
大量の演算処理を高速化できる
デジタル機器のバッテリー寿命が4倍になる省バッテリー性
二酸化炭素排出量の大幅削減
自動運転システムにおける認知・制御機能の高速化……など



半導体という戦場で、英知を発揮する強豪とエンジニアたち

神の領域ともいわれる最先端半導体の量産には、役割を分業化しなければ競合との戦いに勝てない側面が強く、さらに、「ナノ(ミリメートルの1000分の1)」単位の超最先端半導体の開発・製造戦争が勃発するいま、今後はアジア圏にとどまらず、米国、欧州の強豪も相まみえ、ボーダレスな戦いが繰り広げられることになるでしょう。

その様相は戦国時代さながらであり、知略に長けた武将が、人、金、箱、そして英知をいかに活用し、激戦を勝ち抜くか……。武将だけでなく、設計・開発・製造にかかわるエンジニアのみなさんにも、持ちうる英知を遺憾なく発揮してもらい、超最先端半導体における熾烈な戦いを制してほしいものです。



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