世界のカーボンニュートラル化とEVシフトへの急速な動きのなかで、政府の強い援助を受ける中国企業や、集中投資を行う韓国財閥勢が急成長を遂げ、日本のお家芸とされた電池産業は急速に存在感を失いつつあります。
懐中電灯やスマホ、時計、ラジオなどに広く使用されているのがリチウムイオン電池ですが、電気自動車(以下EV)の普及を促す可能性を秘めていることから、電池メーカー、素材メーカー、自動車産業が協働し、研究・開発を推し進めているのが電解液を使用しない「全固体電池」です。
現在のEVにも車載用バッテリーとしてリチウムイオン電池が使用されていますが、「全固体電池」を搭載したEVが主流になれば、充電が速い! 航続距離が長くなる! 液漏れがない!などのさまざまなメリットを得られることになります。でも、安全性や信頼性が高い「全固体電池」の開発には壁があり、EV市場にとってのゲームチェンジャーとしてや本格普及はもう少し先になる……といわれているのです。
「全固体電池」とは、気化しやすい有機溶媒の電解質を固体のものに置き換えた次世代型の電池であり、従来の液体の電解質を使ったチウムイオン電池と比べて急速充電ができる、寿命が長い、安全性が高いなど、さまざまなメリットがあります。
こうしたメリットから電気自動車(以下EV)をはじめ、パソコンや飛行機、船舶など多様な分野への普及が期待されています。EVの観点から「全固体電池」にどんなメリットがあるのか具体的に整理していきましょう。
◉現 状
現状のリチウムイオン電池のエネルギー密度は限界に達している。そのため、リチウムイオン電池を搭載したEVは総じて航続距離※が短い。
◉全個体電池
エネルギー密度がリチウムイオン電池の3倍になる。エネルギー密度が大きくなることで、EVの航続距離※が飛躍的にのびる。
※航続距離=1回の充電で走行できる距離
◉現 状
バッテリーサイズが小さい = 電費※が悪く、航続距離の短い。この2点が一般的なEVのデメリットに。
ただし、すでに市販されている新型EVのなかには、街乗り中心のユーザを対象にした航続距離が比較的短い250〜290kmに設定した車種も登場。こうしたEVではバッテリーを「全固体電池」をより小型化しつつ、充電容量の大容量化を実現している。
◉全個体電池
「全個体電池」は従来のEVバッテリーよりサイズが小さくなるため、〈車両重量が軽くなり、電費※性能が向上する〉〈車体がコンパクトになる〉〈リチウムイオン電池に必要な冷却機構が必要ない〉〈居住空間が広くなる〉などのメリットが得られる。※電費=ガソリン車の「燃費」にかわる言葉で、電力1 kWhあたりの走行キロ数(km/kWh)で表す
◉現 状
出力スペックが3kWhの充電器でバッテリーを100%充電する場合、バッテリー容量が60kWhであれば約20時間、 同80kWhであれば約25時間、同100kWh超であれば約36時間かかるとされている。これはあくまでEVの平均値であり、車種によっても異なるが新機種は充電時間が短い傾向にあり、出力スペックが6kWになれば充電時間は短くなる。また、急速に充電するほど熱を帯びやすいリチウムイオン電池は、高温下で性能劣化のリスクがある。
◉全個体電池
50kW、150kWなど急速充電器の出力容量も大幅にアップしていて、これまで小さなコップで充電していたものから、バケツを使って充電できるイメージに変わることにより、ガソリン車がガソリンスタンドで給油する時のような短時間でフル充電できると期待されている。また、急速発電時に熱を保ちやすいリチウムイオン電池に対し「全個体電池」は高温に強いため、発熱・発火の危険性が低く、安全性が高い。
◉現 状
バッテリーの性能は「容量の大きさ」と「寿命の長さ」に左右されるが、リチウムイオン電池は電解質や電極活物質の副反応や、内部抵抗の上昇によって容量低下が生じ、使えば使うほど寿命が短くなる。
◉全個体電池
「全固体電池」は、リチウムイオンだけが固体電解質内を移動するため副反応が起こりにくく、丈夫な特性から長寿命が実現する。このことによって交換回数が減り、バッテリー交換のコストも削減できる。
◉現 状
液体の電解質は液漏れを防ぐため構造上の制約があった。
◉全個体電池
「全固体電池」は構造上の制約がなくなるため、小型化、薄型化、重ね合わせる、折り曲げる、大容量化など、形状や構造の設計の自由度が高い。
◉現 状
液体で構成されるリチウムイオン電池の電解質の高許容周囲温度は「45℃」とされているため、夏場の直射日光によって車体温度が45℃を超過する自動車への利用は適していないとされていた。また、低温下に置かれた場合に粘度が高まることでイオンの動きが鈍くなる、電圧が下がる……などが発生しうるため、寒冷地での自動車の利用には適していないとされていた。
◉全個体電池
可燃材料を使用していない「全個体電池」は粘度が高まることや溶けることがないため、熱を発しづらく、温度変化に強いメリットがあり、高温下、低温下などの多様な環境変化に耐えられる。
◉現 状
気化しやすい有機溶媒を電解質として使用するリチウムイオン電池は、高温環境下での使用には適していないとされていた。さらに、電解質が液体であるという特性から、正極と負極が衝撃によって直接つながった状態になることもあり、ショートを防ぐための正極と負極の間を隔てるセパレータが必要だった。
◉全個体電池
「全個体電池」もなんらかの原因でショートする可能性はあるものの、耐熱性の高い電解質を使用している「全個体電池」は高温の環境下でも性能を落とさず安全に利用できることがメリットとされている。また、電極が固体で隔てられているためセパレータなどの構造物も必要なく、ショートしづらいメリットも。
目下のところ、リチウムイオン電池の世界シェアランキング(2022年)では、中国企業のCATL、BYDが1位、2位にランクインし、上位10社のうち6社が中国企業となっています。そのほか韓国企業も上位にランクインしていて、世界の大手自動車メーカーが自社向けバッテリーの製造や供給を、中国や韓国企業に依頼しています。
世界のシェアランキングからも、車載バッテリーの開発・製造・販売はアジア圏が圧倒的に強いことが分かりますが、残念なことに日本は4位にパナソニックがランクインするにとどまっています。
「固体技術」そのものは決して目新しい技術ではありませんが、EV用バッテリーとして注目を集めるようになったのは最近のこと。トヨタ、日産、ホンダはもちろん、フォード、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどが車載用の「全固体電池」のメリットを活かすため、液体や高分子ゲルの電極など、仕様が異なる独自の「全固体電池」の研究・開発に力を注いでいます。
現在、EVと呼ばれるバッテリー式EVのなかで最も航続距離※が長いのは、米国の新興メーカー「ルシード」の「ルシード・エア」とされ、その航続距離は最長約830キロとされています。※航続距離=1回の充電で走行できる距離
世界の大手・主要自動車メーカーが未来のEV用電池技術である「全固体電池」の開発に心血を注ぐなか、トヨタが2023年6月に「ルシード・エア」を超える性能を備えた新機種EVの実用化に言及。その内容は「10分の急速充電で1200キロを走る、全固体電池を搭載したEVを2027年にも投入する」というものでした。
「全固体電池」の普及にあたっては、高いイオン伝導性を持つ固体電解質の開発が重要となります。固体であるがゆえイオンを高速で伝導させることは非常に難しく、それが実用化への壁になっていますが、多くの自動車メーカーが2030年もしくは2035年までに「全固体電池」の実用化をめざすなか、市場に大きなインパクトを与えたのが、トヨタが掲げた競合より数歩先を走る2027年の「全固体電池」を搭載した新機種EV実用化への言及だったのです。
充電ステーションなどのインフラ充実とともに電気価格が安定し、買い物のついでにササッと手軽にフル充電できる環境にやさしいエコロジーなEVが広く普及する日が待たれますが、日本国産のEV用次世代型「全固定電池」が世界を席巻する日は、そう遠くない話のようです。日本国民としては大いに期待したいところですね。
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