〈5G ✕ ITエンジニア 前編〉では、「5G」に関する基礎知識と、日本における「5G」基地局の整備状況などを見てきました。1980年代からスタートした通信技術はおよそ10年タームで変貌を遂げ、通信技術構成もアナログからデジタル、LTE(Long Term Evolution)、LTE- Advancedへと変化してきました。
その進化を支えたのは、通信(ネットワーク)やセキュリティ、電波、組み込み、ビッグデータにかかわるエンジニアにほかならず、「5G」のさらなる普及と高度化によって、「5G」技術やその周辺分野においてさらなるエンジニアの活躍が期待されています。
そこで〈後半〉となる本記事では、〈低遅延通信〉〈超多数端末同時接続〉〈超高信頼性〉の3つに絞って「5G」の“すごさ”をご紹介します。
〈4Gと5G遅延速度の違い〉
4G = 遅延速度 : 約10ミリ/秒 → 5G = 遅延速度 : 約1ミリ/秒
「5G」が広く浸透した社会では、スマホやPCで見ていた動画が急にフリーズしたり、コマ送りモードになってしまう……なんてことは過去の話になります。上に記した「遅延速度」を簡単に説明すると、遅延速度の数字が少ないほど、トラブルなくサクサク快適に動画を見られる状態を指します。
この遅延速度は、さまざまなサービスの品質にも直結します。例えば、あるレストランで食事中の客が、水を飲もうとしてグラスを手に取ったところグラスの中はカラ。客は頭のなかで「水のおかわりがほしいな」と思ったのですが、店員が近くにいなかったので我慢することに……。
実は、このレストランは「5G」のネットワークサービスとAIを導入していたため、次のようなサービスを提供することが可能になり、「5G」のサービスが浸透した社会ではこうしたシーンも日常風景になると予測されています。
・「5G」のネットワークでつながったAIが、客の表情や動作を機敏に読み取る
・AIはネットワークを介して、フロアロボットに司令を出す
・AIの司令をキャッチしたフロアロボットは、その客のテーブルに移動してコップに水を注ぐ
こうしたリアルタイムかつ、インタラクティブ(双方向または対話)な“すごさ”を実現する技術要件が「低遅延通信」なのですが、飲食店などのサービス業をはじめ、テレワーク、工場や生産現場での遠隔操作やオートメーション化でもスムーズかつ高速な業務を可能とするほか、ボーダレスな遠隔医療や遠隔教育などの多方面・多分野での応用にも期待が寄せられています。
PCで画像や動画を見たいと思ったとき、これまではインターネットを介してクラウド上のサーバにアクセスする方法が一般的でした。でもこの方法だと、PCとサーバに距離があることでデータ受信に時間がかかることも。そんな「データ受信の遅延(タイムロス)」や「レスポンスの悪さ」を解消するのが、MECと呼ばれるマルチアクセス・エッジ・コンピューティング(MEC)です。
“エッジ・コンピューティング(Edge Computing)”とは、コンピュータネットワークの周縁(エッジ)でデータを処理するネットワーク技術を指し、次のような技術要素によって「5G」の効果を最大限に発揮するといわれています。
・不要な通信を回避し、通信遅延を実現する
・ネットワークの負荷を低減する
・データ漏えいのリスクを低減する
・クラウドサーバへの影響を最小限にとどめ、サーバダウンなどを回避する
〈4Gと5Gの同時接続数の違い〉
4G = 同時接続数:10万台/キロ平方メートル → 5G = 同時接続数:100万台/キロ平方メートル
今後は、小型配送物をドローンが玄関先まで配達してくれたり、無人工作機が田畑を縦横無尽に動いて作物を収穫したり、建設現場では無人クレーンや重機が稼働することも珍しい光景ではなくなるでしょう。さらに、スマホアプリでテレビ、冷蔵庫、エアコンなどの家電操作や、ウェアラブルデバイスやスマホなど、ひとつの定まったサイバー空間に無数のデバイス、人が同時にアクセスしている状況が常態化することになります。こうした社会変容に伴い、複数のユーザと複数のモノが、リアルタイムに情報を共有する「超多数端末同時接続」も「5G」の重要な技術要件です。
「3G」の後に誕生したモバイルデバイスの通信規格「LTE方式(Long Term Evolution)」では、限定エリアで100台の端末を一斉接続すると通信障害が生じることもありましたが、「5G」は「4G」の10倍に相当する100万台/キロ平方メートルの同時接続数を可能とするため、ひとつの定まったサイバー空間に無数のデバイスが同時接続しても通信障害などのトラブルは発生しづらくなります。
冒頭でも触れたとおり1980年代に誕生した「1G」を皮切りに、10年タームで「5G」へと進化してきましたが、10年タームのセオリーでいくと、「6 G」の商用開始は2030年ごろになると予測されています。商用開始まだにはだいぶ時間がありますが、サイバー空間で何万人もの人が同時に共体感したり(オンラインイベントなど)、協調作業を円滑化するシンクロ型アプリ(企業や生産現場など)を見すえた「6 G」の技術開発もすでに進んでいるようです。
超多数端末同時接続のカギになる技術が「グラント・フリー(Grant Free)」であり、「5G」にはこのアクセス技術が使用されています。
一般の家庭でエアコン、ライヤー、湯沸かしポット、電子レンジなど゜を同時に使用して契約アンペア数を超えると、パン!と一気にブレーカーが落ちるのと同じく、従来の通信の仕組みでは、一度に約100台の端末(スマホなど)が限定エリアで同時接続すると、ネットワークの容量を超えてしまい通信障害が起きていました。これは、端末と基地局が通信を行う場合、端末と基地局の間で利用する電波の周波数や利用時間を申請して、その申請を受けた基地局が事前に許可(Grant)する手続きが必要だったから。
しかし、「グラント・フリー」では基地局と端末の手続きは必要なくなります。基地局から端末にデータを送るシンプルな設計によって、通信の輻輳(ふくそう/多くのものが寄り集まって込み合う状態)を回避することができます。実際に「グラント・フリー」を用いた「5G」の実証試験では、約2万台の端末機器を同時接続して、2万台から送信された情報を約70秒ですべて通信できる結果が確認されています。
ライフラインでの活用にも大きな期待が寄せられている「5G」ですが、オフィシャルな場面で使用する場合、その信頼性が重要な技術要件になります。
例えば、AI、遠隔制御、フルオートメーションを導入している生産現場や、完全自動運転車が一般道や高速道路を走る社会では、「超大容量通信」「低遅延通信」「通信の品質」などの通信システムの技術性能や安全性が担保されていなければ、安全性や生産性を損なう重大事故に発展しかねません。
さらに、「超大容量通信」「低遅延通信」「通信の品質」がもたらす効果は予想以上に大きく、60 km/hで走行する自動運転車が危険を察知してからブレーキが利く(停止)までの空走距離を「4G」と「5G」で検証したところ、「4G」の空走距離は「1.7m」に。これでは急ブレーキをかけたとしても、横断歩道上の歩行者と衝突しかねません。
しかし、「5G」環境下の同条件でブレーキをかけた場合は、「わずか数センチ」にまで空走距離が短縮されることが実証されています。こうした自動運転車の検証結果からも「超高信頼」がうかがえますね。
上イラストの(左側)のブルーの囲み内のように、従来のネットワークの仕組みではスマホ、自動運転の自動車、4Kテレビで動画コンテンツの観賞、IoTでの家電操作、オフィスビル、工場、航空機、電車、ドローン、電気・ガス等のインフラなど、あらゆるものがすべて同基準かつ同ネットワーク上で収容される運用方法がとられていました。
しかし、モバイル機器での大容量データの送受信やIoTの浸透など、膨大な数のデバイス、機器、センサが同時につながるようになったことで、物理的限界があるネットワークをみんなで公平にシェアすることに限界が生じていました。そこで威力を発揮するのが「5G」です。先ほどもご紹介したとおり、「5G」には100万台/キロ平方メートルの超同時接続数を可能にする特性があり、その特性を生かした技術が「ネットワークスライシング」です。
「ネットワークスライシング」は、「動画などの高速大容量ネットワーク」「自動運転等の超低遅延ネットワーク」「IoTなどの多数同時接続ネットワーク」などの階層別に、ネットワークを分割(スライス)する仕組みです(イラスト参照)。
限りある資源のネットワークを奪い合うのではなく、用途ごとにネットワークをシェアする新たな仕組みを作ることによって、これまでのような“大混雑(=通信障害などのトラブル)”の発生は回避されますし、何より、ネットワーク使用者も、トラブルとは無縁なストレスフリーの環境でネットワークを快適に利用できることになります。
——今回は「5G」の基礎から、「5G」関連のネットワーク技術について〈前編〉〈後編〉に分けてご紹介しましたが、近い将来、私たちの生活に「5G」が当たり前のように浸透する日は必ずやってきます。その日に向けて国内では、KDDIが法人を対象にいち早くネットワークスライシングの商用展開を開始(現段階では発展途上)するなど、ビジネスサイドへの「5G」普及に向けた取り組みもさまざま行われています。
また、今後は工場や生産現場での遠隔操作やロボット制御への応用を含め、産業のDX化にも大きな期待が寄せられています。便利で快適な「5G」社会と、その高度化を支えるのはエンジニアの活躍にほかなりません。新たな価値の創出はエンジニアの英知にかかっています。刻々と進化する業界動向や技術革新にアンテナを張り、次の時代を切り開いてくださいね。
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